今日もいつもどおりの朝。
いつもどおりの眠たさ。
いつもどおりの寒さ。
そしていつもどおり、教室に一人。
時々先に誰か来ていることもあるが特に仲良しという訳でもないので会話もなし、一人のようなものだ。
勉強をするでもなく、何か用があるでもないのに、ただぼーっとする。
時刻は八時五分。
これでも遅い方だ。
何故いつもこんな時間に学校にいるのかについての理由は、特にない。
起きて支度を済ませ登校して来たらこの時間なのだ。
教室にクラスメイトが入ってくる。
あいさつをする。
ぼーっとする。
いつもいつもなんでこいつはこんな朝早く来ているんだ、
と思われてるんだろうな。
少しまわりの目を気にして携帯をいじる。
何もやることがない。
ふと視線を感じる。
視界の端で見覚えのあるシルエットがこれまた見覚えのある動きをしているのがみえた。
「おはよう」
よう、と手を挙げて挨拶すると彼女は動かしていた両腕をさらにばたばたと動かした。
返事をしたようだ、どうも一般的な挨拶をするつもりはないらしい。
いつもどおりといえばそうなのだが。
「いや、駄目だよぉ」
唐突に始まる会話に主語がない。
「何が?」
「面接」
昨日学校帰りにバイトの面接があったようで、それがどうも思うとおりにいかなかったらしい。
「どうした?何かしでかした?」
「あれは駄目だよぉ」
しかし何度訊いても何がどうして駄目になったか説明してくれない。
仕方ないからもう諦めよう。
話題を変えて会話を再開していると、もう一人教室に入ってくる。
「おはよう」
「お・・・ぬぁぁ、危ない」
「なんでだよ」
意地でもその四文字を口にしたくないらしい。
タイミングがずれたが私からもおはようと挨拶して会話を再再開する。
「駄目だったよ」
またか!
聞き手が変わっても唐突なその言葉には主語が存在しない。
「何が?」
「面接だよ」
「ああ!え、どうしたの?」
自分と同じように会話が進む二人がなんだか面白い。
そしてまた期待を裏切らず駄目だよ友人は理由を言わない。
永遠に続きそうな会話。
困惑する友人。
どんどん気になってきた自分。
「本当何したんだよ」
微笑みながら頷かれる。
うん、じゃねぇ!
多分理由はないのだ、そうだ。
面接なんて、よし受け答え完璧超OKこれ大丈夫だわ!という奴はそうそういないもんだ。
たとえ内心大丈夫と思っていたとしても、大抵は自信ないよぉと言う人が多い。
面接やったことないけど。
「あれ!?今日英語ないの!?」
駄目だよ友人でない方、君も唐突だ。
がしかし、何の話かはわかるぞ。
特編授業の話だ。
特別編成授業、一月中はどの教科でも一つだけでもいいから授業を選択しなければならない。
ただし一日一度は学校に来る。
私のように勉強しない暇人も「読書」という特編授業をとって毎日登校する。
受験ギリギリまで学校に来て皆で頑張ろうというのが我が学校のスタイルであり、
故に「受験は団体戦」というスローガンが誕生した。
「だからちゃんと予定表確認しなさいって言ったでしょうが」
朝会うたびに今日はどこの教室だっけと言うので忠告したはずなのだが、聞く気はないようだ。
「ウソッ英語ないの?」
マジー?ないのー?、何度でも言う。
とても残念そうだ。
志望校合格済みなのに偉いもんだ、うん。
「あー、今日読書行くのやめよう」
どんだけ頑張り屋さんなんだ。
「えー読書来ないのー?」
「来ないのー?」
駄目だよ友人も私の言葉の後半部分を復唱して、読書を勧め・・・てるのか。
「だって、絶対自分で英語勉強しないもん」
「んんん・・・」
そんなに言われると何も言えない。
頑張っている人にその頑張っていることをやめさせようとするのは・・・どうだろう。
・・・
ははは、この頑張り屋さんめ。
「じゃあ英語勉強してきなさいよ」
駄目だよ友人のこの言葉は何故か自分に向けられた。
「そうだよ、代わりに行ってきて」
英語やりたい友人も加勢。
「なんでだよ!無理だよ!嫌だよ!」
そういう、いつもどおりの朝だ。
ところで友人に内緒で勝手にノンフィクションでお送りしているが良いのだろうか。
いいか、見てないし。
今日は顔を合わせてないが、たまに見に来るらしい友人がばらさなければ大丈夫だ。
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