例によって今日も二人とも早くに学校に着き、のんびり会話みたいなものをしている。
何故こんな時間に登校してくるんだ、
という質問はもう互いにしない。
なんとなく、なのだ。
ちなみに最初に会話みたいなものと言ったのは、
相手が喋りかけてくれ、自分は返事をする、という状況だから。
一方的な言葉のキャッチボール、相手からすれば投げっぱなしなのだ。
「おはよう」
教室にクラスメイトが入ってくる。
「おはよう」
「ああ、こんにちは~」
やっぱり彼女は素直に朝の挨拶をしてくれないらしい。
ところで先日言っていたバイトの面接結果だが、
なんだかんだ言ってちゃっかり合格、今日はバイト先で勉強会があるらしい。
おそらく研修みたいなものだろう。
初バイトじゃーん、とからかうように言ってやると、
「私の人見知り、口下手、あげるよ」
「いらないよ」
いやだよこの微妙な緊張ぉと心底嫌そうに文句を言っている。
うかってると思わなかったから電話で聞いた時思わず本当ですかって聞き返したよ、
なんて事を言うもんだから、
「私だって人見知りも口下手ももう持ってるよ。しかも口下手なんて君よりずっと重症だ。」
別に嫌味のつもりじゃないんだが、それっぽくなってしまって、少し後悔した。
大丈夫だよ、と付け足してみたが何が大丈夫なんだか。
「敬語使えるじゃん」
お前だって使えるだろ、とつっこみそうになる。
いや、敬語は確かに難しいかもしれない。
うっかり尊敬語と謙譲語の使い時を間違えたら大変だ。
「です、ます付けりゃいいんだよ」
ならば丁寧語を活用すればいいのだ、と
最終手段だが決して間違いはないアドバイスをする。
自分にこんな話をしても何も得られるものはないぞ、と思ってしまった自分が悲しい。
「おはよー」
友人が入ってくる。
今日は英語の授業はあるのだろうか。
「おはよう」
「・・・」
言うまでもない、三点リーダは挨拶なし。
「おはよう、おはよう、おはよう!」
「おおおおお」
無理矢理言わせようとしている。
ちょっと怖い、と思ったのは内緒だ。
おはようと言わせるのを諦めたらしい友人はおはようと言わないのを意地でも貫くらしい友人と会話中。
突然、振り返る。
「ねぇ、ゴニンバヤシの中で誰がタイプ?」
一瞬耳を疑う。
いきなり話を振られたからというだけで言葉に詰まったのではない。
五人の林君か?
わからんなぁ、知り合いに林という男子はそんなにいない。
「五人囃子だよぉ、どの子がいい?」
わかってる、少しふざけた。
いやしかし、その質問もふざけてないだろうか。
「お、同じじゃねぇ?」
「違うよぉ、太鼓派?笛派?それともぉ・・・」
違う楽器持ってるだけで一緒なんじゃなかろうか、お人形だし。
寧ろ好きなパートを聞いているのだろうか、違うか。
いやぁだからね、とまともに会話をしようと努力はするが、
三人官女派か!とか訳のわからん話が続く。
そんな派閥はない。
「人間って最初なんだったの?アダムとイヴ?」
「猿じゃね?」
めまぐるしく変化する話題。
混ぜるな神話、とかつっこみたかったが二人のテンポのいい会話についていく事は自分には難儀だ。
というかこの二人はなんでこんなに会話が止まらないのだろう。
さっき口下手だなんだって話を聞いた気がするがあんなの嘘っぱちだ。
本当の口下手はこういう奴を言う。
へぇ、そうなの、うん、しか返事のレパートリーがない奴だ。
私か。
「どっちがいいと思う?」
「・・・おう!なんだって?」
五人囃子か?えぇと笛の人かな。
はは、違いますよね。
「どこからついていけてなかった?」
「えと・・・いざなぎといざ・・・」
「アダムとイヴ?」
「ひな祭り?」
返事をさせてくれ。
時間はとんで読書終了後、
数少ない友人の一人に拉致され教室に残っている。
そんな言い方をすると嫌々のようだがそんな事はない。
「ごめんね。ごはん食べるの一人ってちょっと寂しくて・・・」
と言うと、おもむろに今日の実質の朝ごはんであるサラダとサンドイッチを開封する。
わかるぞ、一人でご飯というシチュエーションが一番孤独を感じる。
一人暮らしをしてる訳でも何でもないがそう思う。
「和風嫌いなんだよね」
と言いながらかけているそれは和な風味のドレッシング。
「何でそれ選んだんだよ」
「サラダが食べたかったんだもん」
私が選んだんじゃない、勝手にこいつが付いてきたんだもん、
と誰かに文句を言う。
なるほどそういう発想か、と妙に納得してしまった。
「駄目だね、好きじゃないもの選んじゃうとか。侵食されてる」
「そうだ、ドリー化現象だぞ。気をつけろ」
友人に「好きじゃないものをあえて選んで食べる」という奴がいるのだが、
彼女と一緒にいるうちにその天邪鬼気質が移ってきたのかもしれない。
私達は奴をドリーと呼んでいる。
「なんか話して」
もそもそと食べながら無茶振りする友人。
「・・・マジか」
焦る私。
考えて、考えて、あまりにも無言なので友人に鼻で笑われたのと同時に、
「寒いね」
残念だ、自分のコミュニケーション能力。
「はは、そうだね」
ちゃんと返事してくれる、同意してくれる優しさが暖かい。
何故ブログをやっているのか訊かれたことがある。
理由は色々あるけれど、
一番は、会話の上達、だ。
今日は何があった、何が楽しくて何が悲しかったか、
相手に伝わるように、言葉にする練習になればいいと思った。
効果があるかどうかはわからない、ない気がする。
でも、
面白いことは自分が思っている以上に毎日起こっている気がする。むむむ
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